地域のつながりが子どもを育てるーCASNがつくる「こども食堂」という居場所

近年、「こども食堂」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、こども食堂は単に子どもたちに食事を提供する場所ではありません。そこには、人とのつながりや安心して過ごせる居場所づくりという大切な役割があります。

滋賀県大津市で活動するNPO法人CASN(カズン)さんも、そんな思いを大切にしながら地域の子どもたちを支え続けています。今回はCASNさんの取り組みの中でも、特に「こども食堂」に焦点を当ててご紹介します。

目次

CASNとはどんな団体?

CASNさんは2001年に設立されたNPO法人です。

子どもたちの電話相談窓口である「チャイルドライン」や、不登校の子どもたちへの支援、学習支援など、子どもたちを中心としたさまざまな活動を行っています。

現在は約64人の会員と50人ほどのボランティアが活動を支えており、大津市を拠点に地域に根差した支援を続けています。

CASNさんが大切にしているのは、子どもの声や思いをしっかり受け止め、一人ひとりの力を信じて寄り添うことです。子どもの権利を尊重し、家庭や学校だけではない地域のつながりの中で、安心して自分らしく過ごせる環境づくりを目指しています。

こども食堂が生まれたきっかけ

CASNさんがこども食堂を始めたのは2015年です。

そのきっかけとなったのは、「トワイライトステイ」という子ども支援事業でした。

生活困窮、虐待、不登校、引きこもりなど、さまざまな事情を抱える子どもたちを対象に、夕方の時間を一緒に過ごし、学習支援などを行う活動です。

そこでスタッフが衝撃を受けたのは、参加していた子どもたちの多くが「家族で食卓を囲んだ経験がほとんどない」という現実でした。

保護者の病気や家庭の事情などにより、自分のために作られた食事を家族と一緒に食べたことがない子どもたちもいました。

それまで電話相談などを通じて子どもの悩みを聞いてきたスタッフにとっても、目の前で子どもたちの実情を知ったことは大きな衝撃だったそうです。

「もっと食の支援が必要なのではないか」

そう感じたことが、こども食堂を始める原点となりました。

「貧しい子のため」ではなく、みんなの居場所へ

外で遊んだりボードゲームをしたりして年齢問わず交流している姿が印象的でした

こども食堂を始めた当初は、支援が必要な子どもたちを中心に利用してもらっていました。

しかし当時は、「こども食堂=貧しい家庭の子どもが行く場所」というイメージが強くありました。

周囲から偏見の目で見られることもあり、子どもたち自身が利用しづらくなってしまう可能性もありました。

そこでCASNさんは考え方を大きく変えます。

地域の社会福祉協議会や商店街、小学校などと連携し、地域全体で支える仕組みづくりを進めたのです。

現在の「晴嵐みんなの食堂」は、特定の子どもだけではなく、地域の子どもたちなら誰でも参加できる食堂として運営されています。

毎回小学校にチラシを配布し、広く参加を呼びかけています。

支援が必要な子どもにも自然につながることができる一方で、「困っているから行く場所」ではなく、「みんなが集まる場所」として地域に根付いているのです。

実際にこども食堂へ行って感じたこと

今回、実際にCASNさんが運営する「晴嵐みんなの食堂」に参加させていただきました。

取材前は、こども食堂というと「食事を提供する場所」というイメージをどこか持っていました。しかし、実際にその場に行ってみると、印象は大きく変わりました。

会場に入ってまず感じたのは、子どもたちとスタッフの距離の近さです。

無邪気に遊ぶ子どもたちに、自然に声をかける大人たち。その会話に、子どもたちも当たり前のように返していきます。初対面の人が集まるイベントというより、親戚や地域の人が集まるような温かい空気が流れていました。

参加していた親子連れの方は、「珍しい海外のボードゲームなども置いてあり、年齢を超えてみんなで遊べてとても楽しく過ごしている」と話し、純粋に居心地が良いから来ているのが伝わってきました。

外で遊んでいる様子を見ていると、中学生くらいの男の子がバドミントンに誘ってきてくれ、一緒に遊びました。
誘ってくれるのがとても嬉しかったですし、素直な心で交流できる子どもの純粋さに触れることができ、心が洗われる思いがしました。

食事の時間も印象的でした。ただ食べて終わるのではなく、食べながら色んな話をする子ども達に、大学生ボランティアやスタッフが関わる時間が続いていました。子どもたちは安心した表情で過ごしていて、「ここに来れば知っている誰かがいる」という感覚が伝わってきました。

また、子どもだけでなく保護者や地域の大人、大学生までが自然に関わっている姿も印象に残りました。誰かが一方的に支援するのではなく、地域全体で子どもを見守っているような空気があります。

取材の中で、「子どもの顔が見える人数を大切にしている」というお話を伺いましたが、実際にその場にいると、その意味がよく分かりました。

食事を届けること以上に、一人ひとりの表情や声に気づける関係をつくること。それこそが、このこども食堂が大切にしている価値なのだと感じました。

大切なのは人数よりも関係性

イベントの最後には絵本の読み聞かせの時間も

こども食堂を始めたばかりの頃は、一度に80人から90人もの子どもたちが集まることもありました。

しかし、人数が増えすぎると一人ひとりの顔が見えなくなります。

子どもの名前も覚えられない。子どももスタッフがどんな人なのか分からない。

CASNさんが目指していたのは、ただ食事を提供することではありませんでした。

子どもたちの小さな変化やつぶやきに気づける関係をつくることです。

そのため現在は、子どもが25人前後という規模を大切にしています。

スタッフは子どもたちの名前を覚え、子どもたちもスタッフのことを知っています。

食事をするだけでなく、遊んだり話したりする中で信頼関係が生まれていくのです。

地域全体で子どもを見守る

晴嵐みんなの食堂には、地域の大人たちだけでなく、大学生ボランティアも多く参加しています。

龍谷大学や立命館大学などの学生たちが子どもたちと遊び、一緒に時間を過ごしています。

中には小学生の頃に利用者として参加していた子どもが、大人になってボランティアとして戻ってくることもあるそうです。

こうしたつながりは、まさに地域の財産と言えるでしょう。

また、学校との連携も大切にしています。

子どもたちの様子を学校と共有したり、保護者の状況について相談したりしながら、地域全体で子どもを支える体制をつくっています。

子どもは家庭だけで育つものではありません。

学校や地域、さまざまな大人との関わりの中で育っていきます。

CASNさんの活動からは、そのことがよく伝わってきます。

不登校の子どもたちへの支援も

CASNさんではこども食堂以外にも、「ハッピー・クッキング」という活動を行っています。

学校へ行きづらい子どもたちが集まり、一緒に料理を作ったり食事をしたりする取り組みです。

時には学習支援も行い、高校進学をサポートすることもあります。

実際に、長期間学校に通えなかった子どもが学習支援を受けて高校へ進学した例もあります。

ただ勉強を教えるだけではなく、その子の人生に寄り添いながら伴走する支援を続けています。

目指すのは「いつでも行ける場所」

現在のこども食堂はハッピークッキングと合わせて月に3回の開催です。

しかし、子どもたちが悩みを抱えるのは開催日だけではありません。

しんどい時に、いつでも立ち寄れる場所があれば――。

そんな思いから、CASNさんは今後「常設の居場所づくり」を目標にしています。

昼間は子育て中の保護者が相談に来る。

放課後は子どもたちが集まる。

夕方には高校生や地域のお年寄りも立ち寄る。

子どもを中心にしながら、世代を超えて地域の人がつながる場所をつくりたいと考えています。

エシカルな視点から見たこども食堂

エシカルとは、「人や社会、地域、環境に配慮した選択」を意味します。

こども食堂は、一見すると福祉活動のように見えるかもしれません。

しかしその本質は、人と人とのつながりを育み、誰も孤立しない地域をつくることにあります。

困っている人がいたら気づける関係。

「大丈夫?」と声をかけられる関係。

そんなつながりがある地域は、子どもだけでなく誰にとっても暮らしやすい地域になります。

CASNさんのこども食堂は、食事を提供する場所であると同時に、地域のつながりを育てる場所でもあります。

子どもたちの未来を支えることは、地域の未来を支えること。

その取り組みは、まさにエシカルな地域づくりそのものだと感じました。

これからCASNさんが目指す常設の居場所が実現すれば、さらに多くの人が支え合える地域が生まれるでしょう。

子どもたちが安心して育ち、大人たちも安心して暮らせる社会へ。その一歩を、CASNさんは地域の中で着実に積み重ねています。

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