今回は、ファッション業界の抱える様々な問題について、少し知識面のお話をしようと思います。
みなさんはファストファッションをご存知でしょうか。身近に感じる方も多いのではと思います。
ここではファストファッションと環境問題、人権問題の関係について、詳しくみていきたいと思います。
ファストファッションの台頭
ファストファッションの仕組み
1990年代初頭のバブル崩壊を受けて台頭したのがファストファッションです。それまでのモードファッションでは、パリやミラノ、NYでトレンドを決めるとことから始まり、製品になるまで2年ほどの年月がかかっていました。それに対してファストファッションはモードファッションの流行を後追いし短期間で製品化、販売します。コストを削減できる反面、他のブランドとの差別化が難しいので、価格で勝負することになり大量に作って売るという仕組みになっています。「早くて安い」ファストフードになぞらえて、ファストファッションという言葉が2000年代半ば頃から使われるようになりました。有名なファストファッションブランドではZARA・H&M・ユニクロ・SHEIN・しまむら・GUなどが挙げられます。
ファストファッションを買う消費者たち
ファストファッションの台頭によって、国内における衣服一枚あたりの価格は下がっています。しかしながら、アパレル製品の国内供給量は1990年に比べるとほぼ倍増しています。つまり消費者は価格の安い衣服を大量購入していると言えるのです。
ファストファッションと環境問題
アパレル産業は石油に次いで第二位の環境汚染産業とも言われています。どのような環境汚染を起こしているのか、みていきましょう。
大量生産の裏にある環境影響
1着の服を作るのに使うCO2と水の量
ファストファッションの台頭によって大量に作られている洋服ですが、その製造過程で実は大量のCO2を排出し大量の水を使っているのをご存知でしょうか。
環境省のデータでは、服1着を作るのに約25.5kgのCO2を排出し、約2300Lの水が使われるといいます。これは500mlペットボトルに換算すると約255本製造分のCO2と、バスタブ約11杯分の水が使われることになります。どうしてそんなに必要となっているのでしょうか。
衣服を作ると二酸化炭素(CO2)が排出される
衣服の製造過程では、まず工場を稼働させるエネルギーが化石燃料由来だと、CO2が使われます。作られる衣類の中でも半数を占めると言われる合成繊維(ナイロン・ポリエステル・アクリルなど)は石油から成り立ち、繊維の製造過程でもCO2が使われるので、もっともCO2排出量が多いと言われています。世界中のCO2排出量のうち、約10%がファッション由来に関するものだと言われていて、これは、航空業界+海運業界の排出量よりも多いそうです。これが大気汚染や地球温暖化の原因につながっているのです。
大量の水も必要とする服作り
衣服を作る過程では、例えば毛糸の原料となる羊毛を作るための羊を育てるのにも水が必要です。同様のことが衣服の原料にするための他の動物を育てる際にも言えます。また綿花を育てるのにも大量の水を必要とします。例えばジーンズ1本分の綿を生産するのには1万リットルもの水が必要とされています。そして衣服の染色や、洗浄、加工にも水が必要です。その製造過程で、工場周辺の水質が悪化したり水不足の問題が起きています。
大量生産・大量消費そして大量廃棄
大量のCO2と水を使って作られた大量の衣服は、どのような末路をたどるか見ていきましょう。
大量に消費される衣服
環境省の2022年の調査によると、日本人が1年に買う衣服の数は約18枚、手放す衣服の数は15枚と、購入する数の方が上回っているのが分かります。さらに、一年間着られなかった服は35枚にもおよぶといいます。このデータ結果が続けば、手放す服や、更には着ないまま手放す服が増えてしまう懸念があります。
手放した服の行く末
服の手放し方としては、古着としてリユースやリサイクルする方法、資源回収に出す方法、そしてゴミとして出す方法があります。リユースやリサイクルされる割合は年々増えてはいますが、現状としては手放される衣服の約6割がゴミとして出され、そのほとんどが焼却・埋め立て処分されます。
埋め立てられる衣服
ゴミに出された衣服の約95%がそのまま焼却・埋め立て処分され、その量は年間でなんと約45万トンといいます。大型トラックに換算すると毎日約120台分を焼却・埋め立てしていることに。焼却は大量のCO2を排出しますし、埋め立ては環境破壊につながります。
まだまだある環境問題
農薬と有害物質による影響
例えば綿花を育てるのに、オーガニックでない場合は大量の農薬(殺虫剤)が使用されているといいます。その量は世界中の殺虫剤の4分の1を占め、農薬すべてのうちの10分の1にも及ぶと言われています。
また、安価な衣服には、染料や着色料などの有害な化学物質を使っていることもあります。人体にとっても有害ですし、作る過程で大気汚染や水質汚染を引き起こしているといいます。
マイクロファイバーによる海洋汚染
合成繊維からは、たくさんの微細な繊維が抜け落ちると言われています。それがマイクロファイバーです。
例えば、ポリエステルから出来るフリース1枚からは、1回の洗濯で何百万本というマイクロファイバーが抜け落ちたという実験結果があります。洗濯によって抜け落ちたマイクロファイバーは処理しきれずに河川を通って海へ流れ込みます。
マイクロファイバーはプラスチックなので、海洋プラスチック問題となるわけです。海洋プラスチックは海の生物に飲み込まれて蓄積し、人体に影響を及ぼすのはもちろん、海洋生態系にもなんらかの影響を及ぼす可能性が示唆されています。
このようにファストファッションは、作る過程でもさまざまな形で環境に多大な影響を及ぼし、作られた後も大量に廃棄されることで環境に悪影響を及ぼしているといえます。
ファストファッションと人権問題
ファストファッションは環境問題だけでなく、発展途上国の労働者の人権問題も抱えています。
発展途上国への労働搾取
劣悪な労働環境・低賃金・長時間労働
ファストファッション業界で働く労働者は、多くが劣悪な労働環境で働かされています。
暑さや寒さの厳しい環境だったり、働く工場の安全性に問題があったり、扱う化学薬品の管理が甘く皮膚がただれるなどの健康被害が起きたりなど、問題は山積みです。
そんな環境の中で、1日12時間以上働かされるなどの報告もあります。それでも月収はその国の平均以下であったり、国によっては最低賃金に満たないこともあったりすると言います。労働者は多くが出稼ぎ労働者で、仕送りをせねばならないため、長時間働かざるをえません。途上国では職を失うと新しい職を得るのは難しいため、労働者はそのような劣悪な条件下でも働き続けているのです。
児童労働やハラスメントも
また悲しいことに、発展途上国では児童労働も少なくありません。例えばインドではコットン生産において、2015年に約48万人の児童労働者がいたというデータがあります。さらにパワハラやセクハラも日常茶飯事で、女性が出産直前に休暇を申し出ても許されないどころか、深夜残業を強制されるという事例もあります。
ラナ・プラザ崩落事故
2013年4月24日に起きたラナ・プラザ崩壊事故をご存知でしょうか。バングラデシュにある商業ビルのラナ・プラザが倒壊し、従業員1,133人が死亡、2500人以上が負傷した大事故です。8階建てのそのビルは多くの縫製工場を入居させるために違法な増築を繰り返しており、事故前から倒壊の危険性が指摘されていたと言います。死傷者の多くは、その縫製工場で働く若い女性でした。事故前日にはビルに大きな亀裂を認め、女性達は出社を拒んだそうですが、認められなかったと言います。
ラナ・プラザでは名前を言えば誰でも知っている世界的なメーカーの洋服が多く作られていました。安い人件費を求めた結果、そういった事態が引き起こされたのです。
問題解決へ向けてできること
さまざまな問題を抱えるファッション業界ですが、改善に向けて私たちが取り組めることは沢山あります。
買う前に必要か考える
私たちは手軽に安い服が買えることに慣れてしまっています。今一度、買おうとしているその服は本当に必要なのか、じっくり考えてみましょう。手持ちの他の服で代用できないか、買わずに済む方法はないか検討してみませんか。サステナブルファッションという取り組みも出てきています。ファストファッション以外の選択肢は増えてきています。
サステナブルファッション:
衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組みのこと(環境省資料より)
古着を選ぶ
新品の服を買わずにリユースの古着を買うという選択肢があります。古着はオシャレとしても浸透し、セレクトショップも各地にあるので、手に取りやすいのではないでしょうか。自分の着なくなった服を古着買い取りに出したり、リサイクルショップへ持ち込むこともいいですね。そうすることでいい循環が生まれていきます。
レンタル・シェアの利用
最近のサステナブルファッションの取り組みとして、ファッション業界ではレンタルやシェアのサービスが出てきています。サブスク契約やシェアリングエコノミーといって、1か月間定額で新しい服がレンタルできるというサービスです。メリットとデメリットを考えて賢く利用すれば、常に初めての服を着られていいかもしれません。
長く着れる物を選ぶ
一方で、全く新品の服を買わない「不買運動」がいいとは限りません。発展途上国の輸出先のほとんどは先進国だからです。問題は過酷な労働環境で大量に生産する仕組みにあります。労働者が生活するに足る公正な金額の、安定した収入の保障をする企業の商品を買えば、問題の解決につながります。そのような商品をフェアトレード商品といいます。
フェアトレード商品は丁寧に作られ品質も良いうえ、消費者は商品の出来た背景を知ることで、愛着をもち長く使用することになります。
またオーガニックコットンの洋服を選ぶのも1つの選択肢と言えます。オーガニックコットンとは、3年以上農薬や化学肥料を使わずに栽培された農地で育てられた綿花のことで、農薬による健康被害から労働者を守り、児童労働もせずに製造されたとてもエシカルな綿花といえます。
直して着る・古布を再利用
先日私は、部屋着にしていた息子からのお下がりのジャージがほつれてしまったので縫いました。
以前の私なら「面倒だから捨てて新しいのを買おう」と思ったかもしれません。安価で手に入るのでそう考える方も多いかもしれませんよね。
でもここまで述べてきたように、環境や途上国の労働者のことを考えると、そんなことは出来なくなりました。
気に入らなくなった服も、リメイクして(または得意な方に頼んで)アップサイクルするのもいいですね。
また、まだ着れられるけれど着なくなった服も、これまで40数年も生きてきた私などは沢山あります。寄付をしたこともありますが、途上国でうまく活用されずにゴミ問題になっているという情報を見てから、気が進まないでいます。
そんなとき見つけた活用法が、手頃な大きさに刻んでティッシュペーパーの代わりに使うことです。
綺麗に洗濯した古布は、ちょっとその辺を拭くのやキッチンで食べ残しを拭き取るなどには何の問題もなく使えます。
刻む一手間はありますが、ただゴミとして捨てるよりは、再利用しているしティッシュペーパーの使用削減にもなるので、いいアイディアだと思っています。
まとめ
ファストファッションにひそむ環境問題と人権問題について、そしてそのエシカルな解決にむけての提案をいくつかしてみました。
つまりは、「適量生産、適量購入、循環利用」がポイントだと思います。
ファストファッション企業もサステナブルファッションへの動きが見られ出しました。
消費者の私たちも、価値観の転換をしてエシカルな選択をしていければいいなと思います。
参考文献・資料
ゼロから学ぶファッションと環境問題
ファストファッション業界が抱える環境問題・労働問題とは?解決に向けた取り組みを紹介
環境省
ファッションの環境問題とは?サステナブルファッションの取り組みをご紹介
ファストファッション産業は第二の環境汚染産業?さまざまな問題点について解説
【ファッションとサステイナビリティー】“児童労働”問題の現在地は? 認定NPOのACEに聞く
末吉里花「はじめてのエシカル」
シェアリングエコノミーとは?ファッション業界の取り組みを紹介
オーガニックコットンとは?