市民が動かす“やさしい交通”とは?まちと交通の未来づくりフォーラム「草津フィールドワーク1」参加レポート

2025年10月19日、草津市のキラリエ草津にて、「まちと交通の未来づくりフォーラム 草津フィールドワーク」が開催されました。8月から11月にかけて連続で開催されている「まちと交通の未来づくりフォーラム」は、8月の第1回フォーラム(全体会)に続いて日野、彦根でフィールドワークが開催されています。10月から草津でも全3回に渡ってフィールドワークが行われることになっており、今回がその1回目ということで、内容をご紹介していきたいと思います。

目次

交通まちづくりと草津・湖南地域における課題

最初に、立命館大学教授 塩見康博氏(滋賀地域交通活性化協議会会長)から今回のイベントの趣旨説明を兼ねて「交通まちづくりと草津・湖南地域における課題」についてお話がありました。

なぜ交通を考える必要があるのか

まず、交通について考える必要性について、渋滞・事故・環境・生活など多くの社会問題が交通と関わっているというお話から、CO₂排出量の約20%が交通分野で、うち約8〜9割は自動車であるという調査結果が紹介され、高齢者の買い物・通院困難者が約900万人を超えているという深刻な実態が明らかにされました。

車社会がもたらした負のスパイラル

車の普及で郊外化 → 中心市街地の衰退 → 公共交通の利用減 → さらに車依存へという負のスパイラルが説明され、結果として、コミュニティの希薄化・街の活力低下を招いたと説明がありました。

交通まちづくりの考え方

「交通計画」ではなく「街づくりの一部として交通を考える」ということ、車がなくても暮らせる街へ変えていく必要性、公共交通中心の構造に変えていくことが大事だと語られました。また、移動は「意思決定の連続」だという視点や、車以外の選択肢を持つことが第一歩だというお話もありました。

私たちができること

市民ができることの例として、バスの乗り方教室や体験イベントの開催を挙げられました。また時刻表や路線案内などのバス情報のわかりやすい発信をしてもらうことや、お出かけプラン提案など、利用を促す仕組みづくりを進めること、魅力的で「乗ってみたい」と思える公共交通のデザインも重要だと提案がありました。

草津市の現状と課題

草津市は2024年に「地域公共交通計画」を策定しており、主な課題が10項目(交通不便地・渋滞・情報不足・バリアフリー・自動車依存・交通弱者支援など)にまとめられていると紹介がありました。市民アンケートでは地域交通が「重要だが満足度が低い」項目の多いことが明らかにされました。

今後の方向性

まとめとして、行政任せにせず、市民自身が考える交通まちづくりをしていくこと、同じ志をもつ仲間とつながり、自分ごととして小さな一歩を踏み出すことのきっかけとして、今回のワークショップでアイデアを共に考えていきましょうとお話を締めくくられました。

こまちワークショップ1

次に、ワークショップの時間が設けられました。今回のワークショップはワールドカフェ方式をとられていました。まず隣の人と互いに自己紹介をしたあと、同じテーブルの隣の人の他己紹介をするというユニークなアイスブレイクが行われ、参加者の緊張もほぐされた様でした。

ワールドカフェ方式で進行

ワールドカフェというのは、参加者が一定時間ごとにテーブルを移動し、異なるメンバーと対話を続けることで、多様な視点を得ることが出来る手法です。今回のワークショップでは

  • 自分にとって住みたい、暮らし続けたいまちは、どんなイメージ?
  • 自分たちの地域には、どんな交通の課題がある?
  • 自分の周りには、どんなことに困っている人がいる?

という3つのテーマについてワールドカフェ方式で対話が行われました。テーブルは3回移動が行われ、様々な顔ぶれの方と活発な意見交換が行われていました。

出た意見は付箋に書いて大きな模造紙に貼ってシェアしていき、異なるグループで交わされた意見もひとつのテーブルで共有できる仕組みになっていました。

意見の共有

計4回の対話の後、各グループで出た意見を発表して共有しました。各グループの意見を簡単にまとめてみます。

Aグループ

  • 全体傾向
    • 駅前と郊外で課題が全く異なる。
    • 「困っていない層」との温度差があり、合意形成が難しい。
  • 主な意見
    • 駅前に住宅や商業を集約し、賑わいを生む案。
    • 子育て世帯は郊外を望むなど、ライフステージで選択が変わる。
    • 都市型ロープウェー構想など、夢のある提案も。

Bグループ

  • 理想のまち像:地域のつながりがあり、移動が便利な「程よい都会・程よい田舎」。
  • 課題
    • バス本数の減少。
    • 渋滞(特に草津エリア)が問題視される一方で、「10分程度なら許容範囲」との声も。
    • 北部など静かな地域は交通手段が乏しい。
  • 解決策:MaaSの導入やZippar・自動運転など新技術への期待。

Cグループ

  • 現状
    • 車依存が強い「車社会のまち」。
    • 中心部は便利だが、周辺部はバスが少なく、ドアツードア移動が難しい。
    • 未舗装道路や歩行・自転車の安全性にも課題。
  • 提案
    • 目的別に交通手段を柔軟に選べる「多様なモビリティ」が必要。

Dグループ

  • 現状認識
    • 公共交通の不便を「それほど感じていない」層も多い。
    • 自分の生活圏に合わせて住まいを選んでいる人が多く、「不便さを前提に暮らしている」傾向。
  • 課題・提案
    • オンデマンドタクシーなどの仕組みはあるが、利用者が少ない。
    • 利用意欲の低さと車依存の現状が課題。
    • 「公共交通とは何か?」を改めて考える必要性。

Eグループ

  • 特徴的なテーマ:「飲みに行けるまち」。
    • 車以外の移動手段があれば夜の外出や交流が増える。
  • 課題
    • バスの減便・終電の早さ。
    • 子ども連れでは1km歩くのも大変。
    • 駅前の送迎渋滞が深刻。
  • 提案
    • 駅から少し離れた送迎スペース設置で渋滞緩和。
    • 自転車利用が便利だが、高齢期の移動手段も考える必要。
    • 「駅前集中」による画一化への懸念。

Fグループ

  • 課題
    • バス・電車の本数が少ない。
    • デマンド型タクシーを試験導入しても利用が進まない。
    • 住民の要望と実際の利用の「ミスマッチ」。
  • 提案・気づき
    • 交通課題の解決には行政・事業者だけでなく市民の参画が必要。
    • 南草津では学生が多い一方、土日の閑散が課題。
    • 公共空間の利活用と交通を組み合わせて、人が集まる仕組みを。

進行まとめ

最後に司会進行の辻博子より、各グループで「地域差」「生活スタイル差」を踏まえた多様な意見が共有されたこと、MaaS・デマンド交通・都市型ロープウェーなど、新しい交通の可能性にも関心が集まったことをまとめとして挙げてくださり、参加者同士の交流と学びを今後の活動に活かしてほしいとの呼びかけでワークショップは締めくくられました。

未来につながる交通まちづくり

ワークショップの後は、怪我で来られなくなった講師の方に代わって急遽、日本鉄道マーケティング代表の山田和昭より講話がありました。IT業界で25年勤務後、鉄道業界へ転身し、鉄道会社社長や近江鉄道勤務を経験された方です。

交通まちづくりは市民が主役

最初に、交通は「暮らしに直結」し、市民が利用者であり、運賃を払う支援者であり主権者であり、行政任せではなく「市民が考え、行動する」ことが大切だと訴えられました。

「やさしい交通しが」活動の歩み

次に今回のイベントの主催である「やさしい交通しが」の設立経緯と歩みについて以下のように時系列にそって説明がありました。

  • 2025年度は草津・彦根・日野などで11回開催予定。
  • 2021年:滋賀で「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会」を開催。
  • 2022年:近江鉄道が全線無料デイ地域連携イベント実施。
  • 2023年:「やさしい交通しが」設立。
  • 4回連続フォーラム開催 → 人材の掘り起こし
  • 2024年:交通まちづくりの機運を高めつつメンバー育成を進める。
  • 県の地域交通ワークショップにメンバーが参画。
  • 2025年:「まちと交通の未来づくりフォーラム」を開催。
    2回のフォーラムと草津・彦根・日野でのフィールドワーク、合計11回開催。

市民と行政の“交通認識ギャップ”

活動をしていく中で浮き彫りになってきたこととして、問題意識を持っていない市民は交通の基本的な知識を持たないため、対話がかみ合わないことが多く、「基礎知識を共有してから議論する」ことが重要だと話されました。問題意識を持っている市民も、解決手法を知る場が必要、すでに行動している市民はネットワークが必要だと述べられ、今回のイベントのフォーラムやフィールドワークが地域の現場で学び、対話を通してつながる場となればと話されました。

彦根市の事例

滋賀の交通について考える事例として彦根市を例に挙げて説明がありました。彦根市はJR線を境に「公共交通の町(旧市街)」と「車の町(新市街)」に分断されていて、駅前の旧市街がシャッター街化していること、その理由として観光客が多く訪れる彦根城の中に駐車場があることなどが「歩かない観光」を招いており、「歩かせる仕掛けが重要」と説明がありました。

歩行者中心のまちづくり事例

「歩かせて成功した事例」として出雲大社を挙げられました。出雲大社は拝殿そばの駐車場を廃止し、歩行ルートを整備することで周辺の商店街が活性化したそうです。
さらに規模の大きい事例としてアムステルダムを挙げられ、中心部を車進入禁止にし、路面電車・自転車・歩行者中心のまちへと変更することで 経済も回復し賑わいを創出したと説明されました。

アメリカの歴史に学ぶTOD

TOD(公共交通指向型都市開発)という考え方について、アメリカの歴史を用いて説明がありました。1880年代のアメリカでは路面電車の電停から500m圏内に生活機能を集約し、商業と住宅が混在するというモデルが実践されていて、「歩いて暮らせるコンパクトな街」が人の交流を生んでいたといいます。しかし1920年代以降、車社会化が進み、路面電車が衰退します。第二次世界大戦後、庭付き・ガレージ付きの郊外住宅が標準化し、その結果、公共交通の衰退、インフラ維持費の増大、渋滞の慢性化、地域の賑わい喪失など様々な問題が起こったそうです。

「道路を増やしても渋滞は減らない」

道路を広げても、車利用者が増えて再び渋滞するという「誘発需要」の説明や、コロナ期に車の利用が減って渋滞がなくなるということが起こり、「車を少し減らすだけで渋滞がなくなる」ことを国交省も実感したというお話もありました。

そして、公共交通が本来は住みやすい街を作るための手段で海外では地域への投資とみなされるのに対し、日本では運賃収入と経費の収支だけで判断されてしまうこと、都市計画と整合していない矛盾も指摘されました。欧米では自動車社会の弊害が問題となり、1970年代から公共交通指向に転向しているのに対し、日本ではいまだに1950年代の自動車社会推進が続いているので、滋賀はこれからどうすべきなのか考えていくべきだと締めくくられました。

こまちワークショップ2

続いて、次回開催するフィールドワークについて説明がありました。4つのグループに分かれて、実際に草津の様々な場所へ出向いて公共交通の現場に触れて学びます。以下の4グループの内容説明がありました。

Aグループ:公共交通と自転車で快適なまち
説明:南村 多津恵(輪の国びわ湖推進協議会)
  11月2日(日)13時~16時半 草津駅集合・解散
   ※雨天時は11月3日(月祝)に順延
 自前の自転車、または駅前でレンタサイクルを利用いただき
 謎解きサイクリングでまちを巡り、安全面、走り易さなどを見ていきたいと考えています。
  ■申込締切 10/30(木) <残枠2名>

Bグループ:コミュニティで支える暮らしやすいまち
説明:戸田 浩司(まちづくりにすと)
   11月5日(水)9時~15時 草津駅集合・南草津駅解散
 まめバスや路線バス、草津市で社会実験中の無料バスを利用しながら、
 ベビーカーや車イスで安全に暮らせるまちかをまち歩きして観察します。
ライドシェアに関する情報提供も行う予定です。
  ■申込締切 10/31(金) <残枠5名>

Cグループ:ワクワクの新交通システムと未来のまち
説明:芝 久生(やさしい交通しが 事務局長)
   11月4日(火)13時~17時 南草津駅集合・解散
 連接バスで立命館大学へ、そこから乗り合いタクシーで乗り換えて文化公園都市を巡った後、立命館大に戻り、資料を見ながらLRTなど新交通システムの導入可能性を探ります。
  ■申込締切 10/30(木) <残枠2名>

Dグループ:バス活用で楽々移動・名所にも行けるまち
説明:大塚 佐緒里さん(草津おみやげラボ 代表)
   11月1日(土)13時~15時 南草津駅集合・解散
 まめバス・路線バスを利用して、立命館大地下にある古代製鉄所、
 草津PAなどを見学しながら、地域の暮らし易さを考えます。
  ■申込締切 10/28(火) <残枠3名>

説明の後、グループに分かれ、イベントの参加者は参加を希望するグループのところで詳しい説明を聞きました。
今回参加していなくても、こちらのフィールドワークだけの参加もできるそうなので、興味のある方はぜひお申し込みいただけたらと思います。

地域の交通の未来を描いて

交通をテーマに、草津のより良いまちづくりについて熱心に語り合う参加者の皆さんの姿がとても印象的でした。塩見先生や山田さんのお話もとても学びが多かったのではないでしょうか。これからの草津の未来は明るい、とそんな希望を抱けたイベントでした。

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