インクルーシブ教育のあり方を問うドキュメンタリー映画「みんなの学校」上映会・木村泰子先生トークショー所感

2025年9月20日、大阪府の門真市民文化会館ルミエールホールで開催された、大阪市立大空小学校ドキュメンタリー映画「みんなの学校」上映会と大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏のトークショーに参加してきました。

この映画はインクルーシブ教育の実践をされている公立の小学校のドキュメンタリー映画でした。私が受けたエシカル・コンシェルジュ講座の中でも教育をテーマにした講座は特に衝撃的で教育に対する価値観が変わる体験だったので、これからの教育について関心が高まっていた中で見つけた今回のイベントはすごく興味がありました。

映画の雰囲気が分かる予告編がyoutubeにあったので、ご覧ください。

目次

みんなの学校を鑑賞して

大阪市住吉区にある大阪市立大空小学校
この学校には特別支援学級がなく、発達障害や身体障害をもつ子どもも、すべて同じ教室で学びます。

「すべての子どもに居場所がある学校をつくる」
という理念のもと、初代校長に木村泰子先生が2006年に就任して開校。
教師も子どもも「一人も見捨てない」という姿勢で日々向き合っています。

映画では、
・教室でのトラブルやケンカ
・発達障害のある児童とクラスの関わり
・保護者との協力や葛藤
・教員たちの苦悩と成長
など、実際の一年間の記録を追いながら、
“インクルーシブ教育”が現場でどう実践されているかを映し出していました。

それはそれは試行錯誤の連続。様々な事件が起きる中、教師も必死に迷いながらも真剣に子どもと向き合っていました。
子どもは純粋で真っ直ぐです。大空小学校の教師達はそんな子ども達に大人の価値観を押しつけるのではなく、どんな子どももありのままを認め、子どもの権利を尊重しながら寄り添っていました。

子どももそんな教師の言葉に耳を傾け、問題を起こしていた子も解決に向けて答えを探そうと変わっていく姿に感動しました。涙ながらに決意を語る子どもを見ていると涙が止まりませんでした。大人である教師が子どもを尊重し、真剣に向き合えば、子どもも変わり成長していくのだと実感しました。

そんな教師の姿を見ているので、できないことがある子にはできる子が自然と助けていて、インクルーシブの真の意味が、日常の中で生きている学校だと感じました。

ときには失敗し、悩みながらも、教師も子どもも「できない子を責めず、できる方法を一緒に探す」。
そんな姿が丁寧に描かれ、「教育とは何か」「共に生きるとは何か」を問いかけられる映画でした。

木村泰子先生トークショー

上映会の後は、木村泰子先生によるトークショーがありました。映画は2012年に撮影されたので、「13年後の木村泰子です」とおどけて場内を和ませつつ、大空小学校での9年間の苦労やそれを乗り越えて分かったことが語られました。

開校して最初の一年で、教員たちは「もうこれ以上落ちない」というほど悩み抜き、互いに支え合うことを決意したといいます。「先生が良い先生になること」よりも「子どもが学びの主人公になること」を重視し、「子どもが作る学校=みんなの学校」として再出発します。すると発達障害や不登校とされた子どもたちが全国から集まるようになったと話されました。具体的に取り組んだ内容としては、

・「普通の子」「特別な子」という区分をなくし、マジョリティ(多数派)・マイノリティ(少数派)の壁を取り払う。
・「受け入れてあげる」という考え方自体が排除を生むと気づき、学校から「普通」という言葉をなくした。
・すべての子どもが同じ校舎で学び合うことを当たり前に。

このような取り組みを通して、子どもたち260人が、違いを認め合いながら共に学ぶ学校となり、すべての子どもに「学ぶ権利」があるという原点に立ち返った教育をすることで、教員も子どもも「一緒に学び合い」成長していく場所となったと話されました。

お話の後半では、大空小学校の卒業生の現在の姿が紹介され、それぞれがしっかりと自分の道を見つけ、社会で生きていることが報告されました。

パネルディスカッション

木村先生のお話の後には、今回のイベントの主催者でもある、にじゆめぴーす代表で株式会社KidsNA工房代表取締役の松野祐美子さんと、一般社団法人こどもになる代表の瀧幸子さんがお話に参加し、パネルディスカッションが行われました。

松野さんは「インクルーシブ」という言葉をあまり使いたくないとおっしゃいます。それは、子どもたちが一緒に学ぶのは当たり前のことだからだと松野さんは言います。研修で行ったというイタリアの学校では、特別支援学級をなくし、子どもたちが一緒にいるのが自然であり、インクルーシブという言葉すら必要ない環境だったと紹介され、この経験から、日本で「インクルーシブ」と声高に言わなければならない状況に違和感を覚えたと語っています。その上で、今回チラシにあえて「インクルーシブ」と入れたのは、アンチテーゼであり、自分自身への問いかけでもあると述べられました。

瀧さんはもともと障害のある子どもたち向けの放課後等デイサービスをフランス料理店の中で運営していました。ここでは、子どもたちがプロの大人と一緒に料理やお金の扱いを学ぶ場として、早期から社会体験ができるようにしていました。しかし、兄弟や友達、家族など様々な人が参加したい声があり、国の制度上制約がある中でも、実費で受け入れる形を続けていたと語っています。

その後、制度と現実のギャップを感じたことから、2025年4月に放課後等デイサービス事業を廃止しました。補助金がなくても持続可能な運営方法を工夫し、制度に縛られずに思いを最優先にした活動を重視しています。現在は、レストランを舞台に障害のあるメンバー約30名が得意な仕事を生かして働く場を提供し、クッキー作りやイベント運営など、社会参加や仕事体験ができるモデルを作っています。このやり方を広めることで、社会全体の包摂(インクルーシブ)にもつながると考えていると話されました。

イベントの最後には、大空小学校の卒業生がサプライズで壇上に登場し、映画に出演していた子どもの一人は、

「世の中に期待はしていない。教員を目指していて、なれたら型にはまった授業はしたくない。楽しいからという理由で学校に来てもらえるような雰囲気を作りたい」

と今の心境を語ってくれました。

木村先生の熱い想い

木村先生はおっしゃいます。

「困る子」は、生まれながらに“困らせる存在”なのではなく、周囲の大人の関わり方や指導の在り方がそう思わせてしまっている。叱るよりも、「何に困ってる?」「大丈夫か?」と大人が寄り添う視点を持つことで、学校の空気が変わると。

また、「この枠に入って」と言っている間に、行き場を失う子どもが増えると話され、“包み込む”教育とは「学校に合わせさせる」から「子どもに合わせて変わる」への転換が必要だと述べられ、
「学校の枠をぶっ壊して、みんなで風呂敷を広げる」と象徴的に例えて、制度や常識を越えて共に生きる場をつくることの大事さを訴えられました。

さらに「インクルーシブ教育」とは“特別な教育”ではなく、人権を守る教育だと強調し、
「障害」は個人の中にあるのではなく、社会や環境の側にある障壁だと言い切っておられました。
国連の定義では、インクルーシブ教育は“奴隷制度やアパルトヘイトの廃止”と同列の人権課題になっていることを紹介し、「当たり前に一緒にいる」社会を実現するには、制度を超えた意識の変革が必要だと述べられました。

助け合うことが当たり前の社会へ

「共に生きるとは、“助け合うことが当たり前”になること。」
そう気づくことができた映画とトークショーでした。すべての障害や不登校がなくなり、お互いがお互いを助け合う社会が当たり前になって欲しいと強く思いました。

今までの教育のひずみは確実に今、問題として出てきています。これからの新しい教育のあり方として、この映画の学校のような取り組みが広がっていくことを願いつつ、会場をあとにしました。

12月14日に今回のイベントから派生した朗読劇が開催されるそうです!気になる方はInstagramをチェックしてみてください!
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