エシカル消費(地球や人にやさしい消費の選択)の重要性が高まる中、ヴィーガンという考え方が注目されています。
ここでは、動物性食品をとらないヴィーガンがなぜ地球や人にやさしいのか、詳しく見ていきたいと思います。
ヴィーガンとは?
ヴィーガンの定義

ヴィーガンとは、1944年にイギリスのヴィーガン協会が設立された際に生まれた言葉で、動物性食品や動物由来の製品を一切使用しないライフスタイルを指します。ヴィーガンは、肉や魚だけでなく、卵や乳製品、蜂蜜などの動物由来の食材も摂取しません。また、動物の皮革や羽毛などを使った製品も避けます。
ヴィーガンになる理由はさまざまで、動物愛護や環境保護、宗教的な信念、ダイエットや美容などが挙げられます。エシカルな考え方からのヴィーガンは、動物や地球環境を守るという強い思いから、このライフスタイルを選んでいます。また、どの程度厳密に実践するかは個人によって異なり、厳格に徹底する人もいれば、無理のない範囲で取り入れる人もいます。
ヴィーガンとベジタリアンの違いは、ベジタリアンが卵や乳製品などの動物を殺さずに得られる食品を摂取することが許されている点にあります。一方、ヴィーガンはこれらも避け、より徹底した菜食主義を実践します。
ヴィーガンがエシカルな理由
①環境への配慮
畜産業の環境影響

人口の増加と、それに伴う肉の需要の急増により、畜産業は急速に拡大しましたが、それと同時に環境への悪影響も顕著になっています。
たとえば、牛のゲップや排泄物から発生する温室効果ガス「メタン」、土壌や水質の汚染、さらには動物の放牧や飼料用作物の栽培のために行われる森林伐採などが問題とされています。特にメタンは、二酸化炭素の25倍もの温室効果を持つ強力なガスです。
温室効果ガスの増加は地球温暖化を引き起こし、気候変動を促進します。畜産業は世界全体の温室効果ガス排出の14%を占めており、国連食糧農業機関(FAO)の報告書でも、畜産業が環境に与える負担を半減しなければ、許容範囲を超えた損害が拡大し続けると警告しています。このことから、私たちの食生活が環境問題に深く関連していることが明らかです。
ヴィーガン食による資源の節約
ヴィーガン食が温室効果ガスを70%削減

イギリスのオックスフォード大学の研究によれば、ヴィーガン食が世界中で広がった場合、2050年までに温室効果ガスの排出量を70%削減できるとされています。
一方、魚や卵、乳製品を含むベジタリアン食では、温室効果ガスの削減率は63%でした。さらに、この研究では、ヴィーガン食を選ぶことで、2050年までに最大で800万人の命を救う可能性があることも報告されています。
加えて、気候変動の影響を減らすことなどを考慮すると、世界全体で5,700億ドル(約78兆円)のコスト削減が期待できるとのことです。この研究は、ヴィーガン食が環境だけでなく、健康や経済面にも大きな効果をもたらす可能性があることを示しています。
(参照:Plant-based diets could save millions of lives and dramatically cut greenhouse gas emissions)
水資源の利用を大幅に節約

肉食からヴィーガン食に切り替えることで、水資源の使用を大幅に削減できます。
例えば、牛肉1kgの生産には約20,600リットルの水が必要ですが、トウモロコシ1kgの生産には約434リットルの水しか使いません。植物性食品は動物性食品に比べて必要とする水の量が大幅に少ないため、ヴィーガン食が水資源の節約に役立つことがわかります。
~動物性食品(1kgの生産に必要な水の使用量)~
・牛肉…20,600リットル
・豚肉…5,900リットル
・鶏肉…4,500リットル
・卵…3,200リットル
・バター…13,200リットル
・牛乳…550リットル
~植物性食品(1kgの生産に必要な水の使用量)~
・キャベツ…117リットル
・ブロッコリー…314リットル
・大豆…2,500リットル
・トウモロコシ…434リットル
動物性食品の生産に多くの水が必要な理由は、動物の飲み水に加えて、飼料となる穀物を育てるためにも大量の水が必要だからです。
国連人口基金のデータによると、世界の人口の4割が水不足に悩んでいるとされています。今の状況が続けば、2050年には人口約97億人のうち、約半数が水不足の危機に直面する可能性があると予測されています。
肉の消費を減らすことは、将来の水不足のリスクを軽減することにもつながります。
(参照:バーチャルウォーター量自動計算)
(参照:シリーズ DID YOU KNOW? :水)
②動物福祉
動物虐待と倫理的問題
日本の畜産業における動物虐待の問題は深刻です。アニマルウェルフェアの向上を目指して活動している動物愛護団体のアニマルライツセンターの調べによると、日本では依然としてひどい虐待が行われ、以下のような問題が日常的に発生しています。

- 飲み水の不足: 多くの屠殺場で動物が水を飲めない状況が続いています。
- 意識を失わせずに屠殺: 鶏の屠殺では、意識を失わせないまま首を切る方法が一般的です。
- 生きたまま熱湯処理: 屠殺の失敗により、年間50万羽の鶏が生きたまま熱湯に入れられています。
- 野生動物による攻撃の放置: 鶏が野生動物に襲われても放置されることが多いです。
- 過酷な淘汰方法: 焼き殺しや溺死など、過酷な方法で動物が淘汰されています。
- 電気ショックの多用: 輸送中に動物に過剰な電気ショックが与えられます。
- 絶食絶水強制換羽: 餌と水を与えずに鶏を絶食させる方法が一部で行われています。
- 放置: 鶏が屠殺までの長時間放置され、苦痛を味わっています。
- 暴力の無視: 畜産業者は動物の痛みを無視し、暴力を日常的に行っています。
- 法律の不備: 日本の法律では、これらの虐待がほとんど規制されていません。
これらの問題は、動物の命や福祉を無視し続ける日本の畜産業の現状を浮き彫りにしています。動物の権利を尊重するという観点から、ヴィーガンという考え方はがいかに倫理的であるかが分かると思います。
野生動物への影響

畜産業は森林破壊や生息地の喪失、汚染を通じて生物の絶滅に貢献しています。畜産の拡大に伴い、森林伐採が進み、動植物の生息地が失われ、生物多様性が減少しています。また、家畜の排泄物や農業で使われる肥料・抗生物質が水路を汚染し、水生生物に悪影響を与えています。さらに、畜産に関連する狩猟や密猟も、種の絶滅を加速させています。
こうした影響を減らすには、私たち人間が少しでも肉を食べるのを控えることです。そうして野生動物を守ることができます。
③ 健康と社会的影響
健康への利点

ヴィーガン食には健康にも多くのメリットがあります。以下に主な健康効果をまとめました。
- 血圧の安定
野菜中心の食事は血圧を安定させ、高血圧や低血圧の改善に役立つ可能性があります。血圧が安定すると、心疾患のリスクも減少します。 - 疲れにくくなる
ヴィーガン食は消化が良いため、動物性食品に比べてエネルギーの消費が少なくて済みます。これにより、体の疲労回復にエネルギーを回せるようになり、疲れにくくなるとされています。トップアスリートもヴィーガン食を実践している例があります。 - 生活習慣病の予防
低カロリー・低脂質のヴィーガン食は、生活習慣病の予防に効果的です。また、ヴィーガンになることで食材に対する関心が高まり、食品添加物の摂取を避けるようになるため、健康的な食生活が実現しやすくなります。
研究結果によると、ヴィーガンやベジタリアンは肉食者に比べてBMIが低く、総コレステロール値や血糖値も低いことが示されています。ヴィーガンはがんで死亡するリスクが低いとされ、心血管疾患や糖尿病、高血圧などのリスクも低いことが多くの研究で確認されています。
またヴィーガンになり健康になることで、医療費の削減や労働力の生産性の向上が期待できます。また健康的な長寿を実現することで、年金や介護のコストが減少する可能性があります。
このようにヴィーガン食が健康リスクを低下させることは、社会的健康コストの削減にも寄与すると言えるのです。
労働環境と公正な取引
畜産業における労働環境は、過酷な作業条件と低賃金、精神的ストレスが問題となっています。労働者は長時間働かされ、衛生問題や危険な作業に直面することが多いです。また、賃金が低く、雇用が不安定なことが一般的です。さらに、動物の扱いや過密な作業が精神的に大きな負担となることもあります。
畜産業の労働者との公正な取引に関しては、フェアトレード認証が適正な賃金と安全な労働環境を保証する一助となっています。また、労働基準法や労働組合が労働者の権利を保護し、政府やNGOによる監視と改善活動が求められます。企業も倫理的な労働環境を提供し、サステナビリティを考慮した取引を行うことが重要です。
まとめ
いかにヴィーガンを選ぶことが地球にも自分にもやさしいことが分かっていただけたでしょうか。
とはいえ急に完全なヴィーガンになるのは大変だと思います。
私も今はまだ「フレキシタリアン(ときどき動物性食品を食べるヴィーガン)」を自認しています。
今回の記事で、畜産業における知らなかった事実があった方も多いのではないかと思います。
まずは知ること。知ったら変わることがあると思います。
プラントベースの商品があったら試してみる、肉を食べない日を時々作ってみるなど、自分にできることから始めてみてはいかがでしょうか。
自分のペースで無理なく、環境のためや自分や人のため、何ができるかを考えてみるきっかけになれば幸いです。
【参考】
https://mygreengrowers.com/blog/vegan-ethical2/
https://www.asahi.com/sdgs/article/15005689
https://www.earthmeat.net/blog/contents/vegan/
https://mygreengrowers.com/blog/vegan-environment2/
https://mygreengrowers.com/blog/vegan-environment/
https://www.hopeforanimals.org/topics/10-abuse-in-japan/
https://cruelty.farm/ja/
https://vegewel.com/ja/style/veganmerit