超高齢社会と気候危機の時代に―『まちと交通の未来づくりフォーラム』参加レポート

持続可能な社会を考える上で、交通網への考察はとても重要な視点だと言えます。超高齢社会に突入し、気候危機が叫ばれる中、車社会からの脱却や公共交通の拡充は早急に対策して欲しい課題です。滋賀県は車社会と言えると思いますが、私は公共交通ユーザーです。普段からもっとバスの本数が増えたら良いのにと切に思っています。

今回はそんな日頃の思いを胸に、2025年8月23日に草津市立市民交流プラザ大ホールで開催された「まちと交通の未来づくりフォーラム」の第1回に参加しました。会場は103名の参加で満員御礼、オンラインも前日までに申し込み多数で締め切るなど、注目の高さが伺えました。

FMしがのパーソナリティでお馴染みの井上麻子さんの和やかな司会進行で進んだ今回のイベント。盛り沢山の内容でしたが、少しダイジェストをお送りしたいと思います。

目次

開会挨拶

始めに宇都宮浄人代表(関西大学教授)からフォーラムが開催された背景やこれまでの活動について凝縮されたご紹介がありました。タイムリーに滋賀県世論調査で「公共交通に不満」が15年連続1位の報道を受け、また滋賀県の予算における地域公共交通関係の比率はわずか0.1%未満という現実も踏まえて、行政任せではなく市民主体で交通と街づくりを考える重要性を訴え、今回のフォーラムがそのきっかけになることへの期待を表明されました。

基調講演「住み続けられるまちを支える交通の話」

まず、地域エコノミストの藻谷浩介さんによるとてもパワフルで熱い講演がありました。

公共交通と道路の費用負担の矛盾について

藻谷さんは、公共交通は赤字だから廃止すべきという議論の矛盾を指摘しました。道路は全て税金で建設・維持されており、実質的に大赤字であるにも関わらず、鉄道やバスだけが収益性を求められる現状を「認知症」に例えて批判。江戸時代の「無賃橋」の例を挙げ、現在の道路無料化がいかに特殊な状況かを説明しました。


日本の国際競争力の実態


一般的に「日本は競争力を失った」と言われていますが、財務省の国際収支統計を基に日本は17年連続で多くの国に対して黒字を維持していることを明示。特にアメリカ、中国、インドなどの新興国に対しては大幅黒字で、実際に競争に負けているのはイタリアとスイスのみと説明しました。


人口密度から見た交通政策の考察


可住地人口密度の概念を用いて、日本と世界各国を比較。東京の9,703人/㎢という超高密度は世界的に異常であり、一方で滋賀県は日本全国平均と同水準。このような密度の違いが公共交通の収益性に決定的な影響を与えることを数値で示しました。


高密度都市の問題点


東京のような超高密度都市では確かに公共交通は黒字になるものの、家賃高騰、災害リスク、生活困窮者の増加などの副作用が深刻であることを指摘。大阪市では1人当たり年間12万円の生活保護費がかかる一方、滋賀県の地方部では数千円程度と、土地にゆとりがあることで生活が楽になっている現実を示しました。


少子高齢化の真実


東京の人口増加の中身は実は75歳以上の高齢者が中心で、44歳以下の若年層は減少していることを統計で明示。「東京に若者が流入している」という一般的な認識が間違いであることを指摘し、今後25年間で世界的に高齢化が進む中での交通政策の重要性を強調しました。


結論:バランスの取れた地域づくり


公共交通の黒字化のために人口を過密にすると副作用が大きすぎるため、適度な人口密度を保ちながら税金投入も含めた公共交通の維持が必要と結論。滋賀県のような地域こそが、超高齢社会において「運転をやめても元気に動ける地域」として理想的であることを訴えました。

報告「滋賀県が進める市民参加での地域交通計画づくり 地域交通ワークショップ報告」

次に滋賀地域交通ワークショップ コーディネーター&ファシリテーターの佐々木和之さんより報告がありました。佐々木さんは、従来の行政を仲介した方式では住民と交通事業者の直接交流が限られていたため、直接対話の機会を創出することを目標としたと話されました。


ワークショップの設計方針


ワークショップ設計では、行政情報を住民目線でわかりやすく伝えること、住民・行政・交通事業者それぞれの課題を把握すること、そして従来の「合意形成」ではなく「意見の重なりを見出す」アプローチを採用することを重視されたそうです。


実施内容


実施は2段階で行われ、第1段階では住民の日常的な移動パターンや困りごとを把握し、第2段階では税金投入による公共交通充実案、赤字路線削減案、現状維持案という3つのシナリオを提示して、各シナリオでの日常生活への影響を検討。負担については金銭面だけでなく、送迎などの人的支援も含めて議論したといいます。


主な成果と今後の方向性


主な成果として、「移動手段の確保」という共通認識が得られたそうです。これは単なる公共交通ではなく、ボランティア輸送やライドシェアも含めた広義の移動手段確保の重要性についての合意です。また、JR線の維持についても意外に対立がなかったことが発見されました。今後は、この共通目標を基盤として、手法については柔軟に検討し、意見の重なりを模索していくことが重要だと結論づけられました。

トークライブ「ずっと住みたい幸せのまちを目指して」

次に行われたトークライブでは、モビリティジャーナリストの楠田悦子さん、立命館大学教授の塩見康博さん、そして藻谷浩介さんが登壇し、公共交通を軸とした地域づくりについて議論しました。

登壇者紹介と背景

楠田悦子さん

楠田さんはスイス留学時に体験した改札なし年間パス制度やエストニア・タリンの公共交通無料化事例を紹介し、海外の先進的な交通システムの重要性を語られました。塩見さんはオランダで自転車と公共交通が有機的に連携するシステムを体験し、現在は滋賀県地域交通生活協議会会長として活動しています。藻谷さんは自家用車を手放してカーシェアを活用し、1日1万歩の徒歩生活で健康を維持する実践者として、交通事故の加害者になる恐怖から車離れした経験を率直に語りました。

塩見康博さん

草津市の交通問題分析


議論の中心となったのは草津市の交通問題。国道1号線の南北方向は充実している一方で、琵琶湖方向への東西道路が不足しているため交通が集中し、交差点や渋滞箇所で事故が多発している現状が明らかになりました。この問題の解決には軌道系交通の導入が不可欠であり、バスだけでは限界があることが議論されました。


海外の成功事例紹介


海外の成功事例として、エストニアの首都タリンでは公共交通の無料化により、5年間で5万人の人口増加を実現し、所得税収の増加によってコストを相殺する効果を上げていることを紹介。日本国内では、東急世田谷線が注目すべきモデルとして紹介され、信号待ちが発生する状況でも車やバスの2倍の輸送力を持つ効率性を示していると話されました。また、デンマークのコペンハーゲンでは、美しくデザインされた自転車専用橋が利用促進に大きな効果をもたらし、機能性とデザイン性を両立させた交通インフラの重要性を示していると紹介されました。


統合的アプローチの必要性


現在の道路予算と公共交通予算の縦割り構造を解消し、車両・駅・街全体のトータルデザインによる統一的な価値向上を図ることが重要。受益者を利用者だけでなく地域全体として捉える概念の拡大が必要と議論されました。


データ分析の重要性と客観的判断


交通密度の国際比較では、ドイツ1000、スイス350に対し日本は2000という異常に高い数値を示しているとのこと。藻谷さんは「宇宙人視点」での客観的判断の必要性を提唱し、誰が言っているかではなく事実に基づく議論の重要性を訴えました。


具体的な取り組み状況と今後の方向性


具体的な取り組みとして、アーバンデザインセンターが2025年10月に法人化予定で、草津市・立命館大学・パナソニック・商工会議所の4者連携により駅前空間の再設計と地域価値向上を図ることが紹介されました。2024年には滋賀県知事と草津市長が軌道系交通検討を表明したものの、メディア報道されず市民認知度が低迷している現状も明らかになりました。


関西特有の課題と対立構造の解消


関西特有の敵を作りたがる議論文化による公共交通派と自動車派の不毛な対立構造からの脱却が課題として挙げられ、データに基づく建設的で協調的なアプローチの必要性が議論されました。

フィールドワークの紹介

最後に、今後のプログラムとして彦根、日野、草津の3グループに分かれて行われるフィールドワークについて説明がありました。

彦根フィールドワークの忠田コーディネータ


彦根フィールドワークのテーマは「公共交通を活かした観光まちづくり」

日野フィールドワークの山田コーディネータ


日野フィールドワークは「駅を中心ににぎわうまちづくり」

草津フィールドワークの辻コーディネータと芝コーディネータ


草津フィールドワークは「誰もが住みやすいまちづくり」

各担当者の個性あふれるプレゼンテーションが印象的で、どのフィールドワークも魅力たっぷりの内容が紹介されました。
こちらのフィールドワークはその地域に住んでいる方以外でも参加できますし、関心のあるものはすべて参加できるとのことでした。
フィールドワークで現場を見て知って知見を深めたあとで、11月の最後のフォーラムに進むという流れが説明されました。

最後に副代表の南村多津恵さんから、みんなで一緒に交通ついて考え行動する仲間になりましょうと呼びかけがあって、フォーラムは盛況のうちに終了しました。

グラフィックレコーダー

今回のフォーラムの内容を、グラフィッカーの永阪佳世さんがグラフィックレコーダー(グラレコ)としてまとめてくれました。

講演を聞きながら即興で図を書いていき、とても分かりやすくてワクワクする図が完成していく様子に感動しました。

多角的な視点と市民の立場から行動を

今回の「まちと交通の未来づくりフォーラム」、交通について知らなかったことが沢山聞けてとても学びの多いイベントでした。ただ単純にバスの本数を増やせば解決するという問題ではないことが分かりました。いろんな角度からまちの未来を考えて、市民の側から行動していくことの重要性も分かりました。続けて開催されるフィールドワークやそれを受けての全体会も楽しみです。また追ってレポートしていきたいと思います。

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